ノート

吉行さんは、「内ポケットに入るくらいの薄いノート」を持っている、という。

 このノートは、昭和三十三年に「男と女の子」という『群像』に載った二百枚くらいの作品を書くときから使いはじめた。 以来、現在にいたるまで、新聞や週刊誌の長編も含めて使っているが、まだ余白がある。ディテールの重複を避けたりするための、 心覚えのメモのようなもので、つまらぬノートである。

『樹に千びきの毛蟲』より


言うまでもないが、取材をしてから作品を作り上げていく作家とは逆の姿勢といえる。





いわずと知れた、ちっこい虫。

一般には害虫の部類に分類される。

その蚤と(紳士と言われる)吉行さんと一体どう関係があるのか、というと、話は旧制高校時代に溯る。

 

寮で生活していた吉行さん、一年生の夏を岡山で過ごそうと思い布団包みを叔母の家に送った。叔母がその包みを開けてみるとビックリ、物凄い数の蚤が飛び出してきたそうな。

 

この布団、もし残っていたらプレミアがつくのでしょうか・・・。
そういえば吉行さんは、蚤だけでなく虱にも寛大でありましたね。