- - - バーバーオイカワ - - -

 

 

 

 

 

前回のよれよれ探訪「雨か日和か」で少しご紹介した理髪店。

 

もしかしたら、吉行さんが頭を整えてもらったことがあるかもしれない理髪店。

 

 

 

6月初旬、営業時間などを記載すべく詳細を調べていたら公式ホームページを発見。

メールアドレスが載っていたのでご挨拶のメールをお送りした。

 

そうしたら後日、なんと、店長の及川さんからご返信を頂戴したのである。

 

リンクをお許しいただけ、及川さんのお心遣いで店内も見せていただけることになりまして。

 

 

こりゃあ、さっそく拝見しにうかがわねば!

 

 

というわけで、またしても行ってまいりました。

理髪店『バーバーオイカワ』さん。

 

 

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某月某日の15時過ぎ、帝国ホテルに到着した私は、何時頃にうかがえばいいのか

及川さんにお電話をし、アポを取った。

 

 

約束の時間にお邪魔すると、まず及川さんから非常に驚かれる。

 

 

どうも、私の風貌が文章と違うようでして。

あまりに薄い顔立ちが、人々を平安時代にトリップさせてしまうのでしょうか。

 

 

そんな顔立ちはさておき、営業時寒中なので当然のことながらお客様がいらっしゃる。

お話をうかがったり写真を撮るのは、さすがに・・・

 

 

そこで、閉店後またお邪魔させていただきたいとお願いし、銀ぶらへ(死語)。

 

 

 

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閉店の10分前に、お店に到着。

 

 

及川さんに撮影の許可をいただき、いろいろなところを激写、激写、激写。

 

 

 

まずは、お馴染み、青と赤と白のぐるぐる。 

 

 

 

 

この手前の壁には、こんなぐるぐるも。

 

 

 

 

 

いいですねぇ、この感じ。

 

 

お店の外観。

 

 

右の上に見えます、ライト風のぐるぐる。

 

 

このぐるぐる、正式には「サインポール」という名前らしい。

(及川さんのメールより)

 

 

よく見るのに、名前を知らないものって、結構ありますよね。

マイボキャブラリに、単語がひとつ増えました。

 

 

いざ、店内へ。

 

 

 

 

木目の濃い茶色と落ち着いた赤の床が安らぎをくれます。

 

 

つきあたりのスペースに椅子が四つあり、左と右と、こんな感じ。

 

 

 

 

 

 

突き当たって右に、こんなスペースが。

 

 

 

椅子二つ。

 

ここは、純子室といったところでしょうか。

 

 

壁で区切られている空間ではないのに、落ち着いた雰囲気。

 

 

 

上の写真でいうと、左のところがドアになっており、個室が二つ用意されている。

 

 

 

 

ゆったりできそうなスペースです。

 

 

顔を見られたくない有名人や、疲れて静かな場所を求めている人が、

気を遣わずにのんびりと頭を整えてもらえそうな一角。

 

 

だけど、吉行さんは使わないだろうなあ。

特別扱いじゃない場所にすっぽり当てはまっていそうですね、吉行さんは。

 

 

 

ざっと店内の写真を撮らせていただいた後、待ち合いコーナーで

及川さんとお話する時間をいただいた。

 

 

 

著書に、吉行さんはホテル地下にある理髪店で

定期的に髪をなでてもらっている、という記述があったこと。

 

吉行さんがよく利用したホテルを考えると、

帝国ホテルのこのお店である可能性が濃厚であること。

 

 

こういった経緯で5月末に帝国ホテルを訪れ、

閉店後の店内を撮影させていただいたことに対するお礼も申し上げた。

 

 

 

及川さんは、「いえいえ」と、おおらかにおっしゃってくださる。

 

 

 

及川さんは、吉行さんが存命の頃に店長をされていた方のご子息で、

吉行さんが亡くなった後に店長になられたので、

吉行さんについては、来店していたかもご存知ではないそうです。

 

 

本当ならば、ここで終わるはずだったこの取材。

 

 

しかし、及川さんはご親切にも、

「詳しいことは父親に聞いてみますよ」とおっしゃってくださったのだ。

 

 

 

そして、及川さんは手帳を取り出し、メモをしながら聞いてくださる。

 

 

 

 

「何年くらい前の話ですか?」

 

吉行さんが亡くなったのが11年前なので、それより15年前くらいでしょうか。

 

 

 

「どんな髪型だったのですか?」

 

晩年は、八二のような感じで分けていました。

バーバーオイカワさんのロゴにあるイラストのようなスタイルです。

 

 

 

「どんなメニューでしたか?」

 

あまり髪が伸びないので、鋏を入れるというより撫でてもらう、と書いてありました。

パーマはかけていないはずです。

 

 

20分でササッと仕上げてほしい、というようなリクエストをしたかもしれません。

 

 

 

「顔剃りはしていましたか?」

 

剃刀にまけてしまうくらい肌が弱かったので、剃刀は当てていないと思います。

 

 

 

「何か髪につけていましたか?」

 

あまりベタベタしたものはつけていないと思います。

香りが強いものも避けていた可能性が高いです、ビャクダンが嫌いでした。

 

 

 

「どんな性格の方ですか? よく話すタイプですか?」

 

気を遣ったり心配りをするタイプで、だからこそよく話していたかもしれません。

気さくに、いろいろと話していた可能性が大です。

内容は、天気とか野球とか、たぶん、軽い世間話みたいなものだと想像します。

 

 

 

このやりとりを真剣な表情でメモしてくださる及川さん。

 

質問の視点はやはりプロですね。

 

 

個人で運営しているファンサイトということもお伝えしてあるのに、

お仕事の後にこのような・・・恐縮しきりでした。

 

 

あまりの図々しさに茫然としている私に、及川さんが質問を続けてくださる。

 

 

「他になにか特徴などありますか?」

 

そうですね、服装は、黒っぽいスーツをノーネクタイで着ていた可能性が大です。

 

 

 

「何か、他に聞きたいことはありますか?」

 

あります!

 

 

どんな服装だったのか。

どんな口調で、どんな会話をしていたのか。

 

 

入店の仕方、支払いの仕方はどんな感じだったのか。

 

 

肌の具合はどのようであったか。

 

 

どのくらいのペースで来店していたのか。

 

 

覚えておられることがあったら全部教えてください!

とお願いしてきました。

 

 

その後、20時近くなっていたので腹ごしらえをするため、及川さんご推薦の中華料理店へ。

 

 

これがまた美味しくて。

 

 

吉行さんが行ったかもしれない理髪店の中を拝見でき、

ご親切にも取材にお付き合いいただき、

興奮さめやらぬまま、最後は美味しいビールと料理で締め、でした。

 

 

及川さん、ありがとうございました!

 

 

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後日、及川さんからメールを頂戴する。

 

 

ビンゴです!

 

吉行さんは、「バーバーオイカワ」さんに行っていました。

 

 

及川さんが、いろいろと調べてくださったのです。

 

 

昭和50年から亡くなるまで利用していたとのこと。

 

担当者はずっと小山さん。

 

小説にも実名で登場しています。

エッセイ『理髪店にて』の、あの職人と呼びたくなるという、あの方です。

 

 

通常なら50分くらいかけるシャンプーとカットを20分で終わらせていたとも。

せっかちだったんですね。

 

 

「パンテーンのトニックをつけるだけで油(ヘアリキッドの類) は一切付けなかったそうです。 」

(及川さんのメールより抜粋)

 

 

そして、黒っぽいスーツにノーネクタイという服装だったとか。

 

 

会話の内容などは、おぼえていらっしゃらないそうです。

 

そうですよね、お客様との何気ない会話をぜんぶ覚えていることは稀ですし、

覚えていたとしても、会話の内容までは漏らさないのがプロなのかもしれません。

 

 

フラッと立ち寄った「ホテルの地下の理髪店」が、

本当に吉行さんが通った「あの理髪店」だったとは・・・

 

 

そして、及川さんのご協力によって、このように足跡をたどれたとは・・・!

 

 

ありがとうございます。

 

いやぁ、胸がいっぱいになってしまった。

 

 

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後日、及川さんから、またメールを頂戴する。

 

 

なんと、吉行さんには定位置があったというのだ!

それは、突き当たり右にある、準個室のようなスペースの左の椅子。

 

 

番号は六番なのだそうです。

 

 

そうとなれば、その椅子の写真を撮らせていただきたい。

でも、あまりに図々しすぎて、はっきりお願いするのもはばかられる・・・。

 

 

しかし、及川さんは写真を撮る時間を下さったのです。

嗚呼。

 

 

日をあらためて、またお邪魔した私は、六番の椅子を激写。

 

 

 

この椅子。

 

 

この椅子です。

 

 

この椅子なんです!

この椅子でカットをしてもらっていたんですね。

 

シャンプーは、真ん中にある白い洗面台でしてもらっていたんですね。

 

 

 

内装も椅子も、当時と変わっていないとのことです。

 

 

 

いつか私も整えてもらいたい衝動にかられました。

仕上げは、このパンテーンで。

 

 

 

 

そういえば、お店の入口に木製のロッカーがありまして。

 

 

これがまた、いい雰囲気なのです。

 

なんか古きよき時代を思わせるような作りで、木にあたたかみがあって。

 

 

・・・。

 

 

及川さんに聞いてみる。

 

もしかして、吉行さんも使っていたんですか、このロッカー?

 

 

「椅子の番号と同じ番号のロッカーを使うシステムなんですよ」

 

というと、このロッカーですね!

 

 

全体像は、こんな感じ。

携帯で撮ったので、少し明るくなっています。

またしても吉行さんの足跡をたどれてしまった。

 

 

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閉店後の店内を拝見したのが5月28日で、この取材が終わったのが7月8日。

 

 

約1ヶ月半、当初は想像もできなかった展開を経て、想像もできない結末を迎えました。

 

これもすべて、及川さんのご協力のおかげです。

 

 

吉行さんの小説に出てくる場面を、

これからはこの店内を思い出しながら読むことができます。

 

 

この色の、この空間の、この空気の中にいる吉行さんが感じた、

小山さんとの20分のやりとり。

 

 

また、小説とエッセイを読みかえしてみよう。

 

 

最後になりましたが

何度も何度もお邪魔してしまって申し訳ございませんでした。

 

 

そして 

お忙しいところ、本当にありがとうございました。