1999年5月15日。
吉行淳之介文学館は、
吉行さんの生涯のパートナー・宮城まり子さんが園長をつとめる
「ねむの木学園」の傍にオープンしました。
真っ青な空とこんもり盛り上がる森を背景にたたずむ、落ち着きのある和風の建物です。
(設計:京都の建築家・中村昌生氏)
並んで植えられている、吉行さんが好きな桜や欅たち。
色鮮やかな紅葉や中庭の芝生。
ひょっこり訪れる、野良らしき三毛猫。
文学館の前には大きな池があり、
水面に太陽の光がキラキラと反射しています。
「銀座・新宿」「夜」「酒場」がとても似合っていて、
その空気にすっかり溶け込んでいた吉行さんの文学館は、
そんなイメージとは逆の、ネオンも雑音もまったくない豊かな自然の中に建っていました。
館内には、全著作(約400冊)をはじめ、
手書き原稿、記念品、愛用の品々、写真などが展示されています。
1998年10月に世田谷文学館で開催された「吉行淳之介展」での展示品より、
こころもち品数が多くなっているようです。
ディスプレイも、なんだか独特のような・・・?
吉行淳之介文学館。
文士・吉行淳之介がとても身近に感じられる、
そんな文学館な気がします。
文学館のご案内
*開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
*休館日
年末・年始
*入館料
一般・大学生:¥600 (20名以上の団体の場合¥500)
小・中・高生:¥250 (20名以上の団体の場合¥200)
*館内の施設
椅子や大きなソファがぽつぽつと置いてあるので、坐って本や雑誌を読んだり、アンケートに記入したりできます。
中庭には「和心庵」という茶室があり、ねむの木学園のこどもたちがお手前してくれることがあるようです。
トイレは受付の前にふたつあります、車椅子で入れるタイプのものです。
館内はバリアフリーになっています、さすがです。
*注意事項など
再入館はできません。途中でオナカがすいてもガマンです(笑)
館内での写真・ビデオ撮影や複写、万年筆や毛筆などの使用は禁止されています。
展示品に触ってはイケません。 ←この項目の意味が本当によく分りました
*その他
館内で、吉行淳之介文学館が発行している「吉行淳之介」(¥1950)が販売されています。
現在、絶版になっていない吉行さんの本(全集も含む)が販売されています。
宮城まり子さんの本も販売されています。
アクセス
*所在地
436−0221
静岡県掛川市上垂木あかしあ通り1丁目1番
*電話
0537−26−3923
*交通案内
JR東海道線・新幹線で「掛川」下車
北口から「ねむの木美術館」行きバスで20分。
boo-suke 散歩ノート
行ってきました、吉行淳之介文学館。
神奈川に住んでいるので、約2時間半のちょっとした旅でした。
紅葉の季節。
まずは、まっかに燃えたモミジが綺麗なエントランスで写真撮影。
ここから先には、ネタバレ的な文があります。
今から文学館に足を運ぼうという方で、
事前に情報を入れたくないと思われる方は、どうかとばしてください。
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黒い四角い大きな石に刻まれた「吉行淳之介文学館」。
くるっと後ろに回って見てみると、左下に「平成11年5月 まり子」という字が。
ただの字のはずなんですが、どうしてでしょう。
なんだか「感情」みたいなのを感じました。
その黒い石の左側後方にある、三まわりも四まわりも小さな丸い白い石。
そこには、宮城まり子さんの本名「眞理子」と墨で書いたような字で記されています。
「吉行淳之介文学館」の後ろでたたずむ「眞理子」。
なんだか、いつも吉行さんの横にいる宮城さんを見ているようでした。
この場所からはじまって、この文学館にはいつも宮城まり子さんがいます。
何を見ても、どこに行っても、宮城さんを感じるのです。
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さて、チケットを買っていざ入館。
ここで靴を脱いでスリッパに履き替えます。
扉をくぐると、右手に、黒いグランドピアノと黒いソファが。
三人用、二人用、一人用のソファが一脚ずつ配置されているので、
そこに坐ってご芳名帳(?)に筆ペンで住所と名前を書きます。
みなさん、お上手なんですよね。
私は自分の悪筆を見て情けなくなりました。
吉行さんみたいに「千びきの毛蟲」って書いたら少し気が楽になりそうです。
このスペースは、ちょっと一息つくための場所でしょうか。
気がつくと、すっかりリラックスして雑誌をぱらぱらめくっていました。
クラシックがほどよいボリュームで流れていて、窓からは和風の庭が見えます。
内は白い壁と黒いソファでシックかつシンプルな雰囲気なのに対し、外は純日本風の景色。
広い庭が見えるのも、リラックスできる空気を作りだしている理由かもしれませんね。
さあ!展示室に向かいます。
最初のブロックには、『樹に千びきの毛蟲』のまえがき原稿や、
『老イテマスマス耄碌』のあとがき原稿などがガラスケースの中に展示されています。
まるみがかった字から、何かがじんわりと滲み出ていました。
原稿の横には、ちょっとリアルな人形の顔がくっついたワインの替え栓がコロッとふたつ。
原稿や著作の横に必ずちょっとした小物が飾ってあるんですが、
みんな味のある、洗練されたものばかりでした。
そうそう、安岡章太郎氏からの手紙もありました。
「豆カンの食べ方」も。
山の上ホテルからの手紙(ホテルの便箋を使用)に
サラッとペンで描いてあるイラストなんて、なんともいえず味があって、思わず唸り声が出たほどです。
「僕のぶんも忘れずにタノむ」
吉行さんは、どんなことをタノまれたのでしょう?
(後記:タノまれたのはライターでした。)
次に「お!」と思ったのは、時計とライターのコーナー。
腕時計とぶらさげる時計が計6こくらいありましたでしょうか。
ライターも、6コくらい。
どこのブランドか全部は分らなかったのですが、さすが吉行さん、センスがいいです。
ダンヒルのライターなんか、使い込んでて色がいい具合に変わっていて、
そこがまたおしゃれなんですね。
あ、300円ライターは展示してなかったです。
あの下駄もありました!
あぐりさんからもらったという足の指がついてる下駄です。
なんとも愛嬌のある、ちょっと不恰好な下駄。
安定感があって、気持ちよさそうといえば、よさそうかも?
そして、待ちに待った最後のコーナーへ。
ここは凄いです、仕事部屋が再現されています。
それも、ガラスケースの中じゃありません、部屋の中に、です。
ロープの仕切りもありません。
愛用の机と椅子、赤い座布団、ライト、灰皿、
原稿用紙、ペンたて、虫眼鏡、老眼鏡、付箋紙、足置き、モビール、
それに、リクライニングチェアとオットマン・・・
全部、きちんと並んでいるんです。
モビールも、ちゃんと揺れているんです。
ライトは、ちゃんと机の上の原稿を照らしていたりして。
靴は脱いでるし、壁は白いし、
なんだか「ここは吉行さんの部屋?」と錯覚しそうでした。
ふと、後ろから吉行さんがあらわれるんじゃないか?
って思うくらいです。
靴を脱ぐ、という設定。
隔てるものがない状態で感じる愛用品、という設定。
宮城まり子さんは、思い切ったことをする方だなぁ
とあらためて思いました。
チケットの裏に「触らないでください」って書いてあったのですが、
触ろうと思ったら触れます・・・。
でも、さっすがに触れないですね、こういった状況だと。
実は、最初から、このコーナーで部屋が再現されている
っていうことに気付いてました。
でも内心「ウソだろ、ウソだろ」と思いながら、どこかで期待してたんです。
もう、期待以上でした。
この試みの結果、宮城さんは、きっと寂しい思いをされているだろうな、と思ったりもしました。
それにしても、いいソファだったなぁ。
100万以上するのかなぁ(下世話)
三時間ほどウロウロしていた私は、オナカがすいたから外へ。
おっと、帰るときに忘れてはならないのが出版物です。
これも入館したときから狙っていました。
吉行淳之介文学館が発行している「吉行淳之介」。
展示物の写真や、館内では見られない吉行さんの写真が満載!
そして、安岡章太郎氏や阿川弘之氏をはじめ、交友のあった方々の「吉行さんについて」のお話が載っています。
あと、世田谷文学館で発行された「吉行淳之介展」が数冊置いてありました。
世田谷文学館では完売になっているので、あのとき手に入れられなかった方はチャンスです。
さあ帰ろう、と思ったらバスが行ったばかり!
文学館の前のブロックにへたり込んで、しばし呆然。
と、そのとき、目の前に三毛猫が出現。
猫と遊ぶべく「おいでおいで」と言ってみたところ、
「ち!」ってな音を発して逃げていきました。
猫のメスにまでフラレるなんて。
しゃあない、今度行ったときに手なずけるとします。
*注意
情報は、約10年前のものです。
ご了承ください。