ひ
■ ひじき
ヒジキとアブラゲとを甘辛く煮るのももちろん悪くはないが、ヒジキに鰹節を削りこみ、梅干を丸いまま二つ、三つほおりこんで、 甘味を使わずに煮るといい。梅干の味が、そこはかとない底味になってすこぶるいいと言うと、庄野潤三は、「なるほど、しかし、
君がヒジキが好きとは意外だったな」と言った。
『軽薄のすすめ』より
という文章を書くくらい、ひじきに詳しい(?)吉行さんだが、かといって大好物かと聞かれたらそうでもないらしい。
ホテルに 泊り込んだりしたときにむやみに食べたくなる惣菜料理のひとつだとか。
そうそう、あぐりさんのひじき、かなり美味しいというお話です。
食べてみたいですね。
■ 避暑
吉行さんは避暑をしたことがなかった。
暑い暑い東京で汗をかきながら原稿用紙に向かい、体力消耗の毎日を送っていた、と著書に 書いてある。
避暑という行為自体も好ましくないのかもしれないけれど、「雑踏の中の孤独」を好む吉行さん、東京を離れて山紫水明、
という生活に耐えられなかったからかもしれませんね。
それに、ネオンがない吉行さんの夜なんて考えられません。
■ 左利き
吉行さんは、本人いわく「陰険な左利き」だとか。
箸やペンなど、持ち方を小さい頃に矯正された部分については 右利きなのに、無意識に使うのは主に左手らしい。
つまり、矯正されずに残った部分が左利きという。
どんな時に左利きになるかというと、ふと何かを持ったり掴んだりするとき。
麻雀の牌や、タバコ、グラスなど、 左手で持っている写真が多くあります。
そして、寝室では左利き。
この「寝室では左利き」というのは、どういう意味の表現なのか?
誰にも神経を使う必要がない場所では 左利きという意味か、それとも?
なんにしても、左利きには芸術肌の人間が多いという説に当てはまりますかな。
■ ひとりきり
見知らぬ顔ばかりで雑踏している街の中に身を置くと、私はやっとひとりきりになれたという解放感で神経が休まってくる。そ の雑踏は、ごみ合っていればいるほど、騒がしければ騒がしいほど具合がよい。
その反対に、いわゆる人里離れた場所、針の音も大きくひびくような土地に身を置くと、気分がイライラして 落ち着かなくなってくる。
『軽薄のすすめ』より
■ 白檀
白檀の匂いにアレルギーを持つ、という吉行さん。
若い頃に交友があった女性から白檀の香りのする扇をねだられたことが原因か?と著書にありましたが。
■ ビール
ビールとトマトジュースをまぜたカクテルを愛飲していた吉行さん。
ウィスキーをがぶがぶと飲めなくなってしまった頃から 飲み始めたというこの飲み物、吉行さんはその色から「チャームナップ」と名づけてみたらしいが、名前もさることながら、 色合いも周囲の人から好まれなかったようであります。
その後、「ビルトマ」となったりもしたが、最終的には、本来の名前 「レッドアイ」に落ち着いた。
ビールとトマトジュースを半分ずつ混ぜた飲み物で、ビール1瓶のアルコールで2瓶分楽しめるというコトですね。
この「レッドアイ」という名前は、二日酔いで目が赤くなった様子にちなんでつけられた。
酒飲みの間では、迎え酒としても 愛飲されているようだが、ビールはともかく、トマトジュースに入っている成分がアルコールを追い出す作業を手伝ってくれることは
確かですな、私も飲みすぎた翌朝は毎回のようにお世話になっています。
■ ヒロポン
ヒロポンなどの興奮剤は、使ったことがない。一度だけ使ったら、比較的速く原稿が書けるので、不愉快になった。 薬品の力に、精神が左右されることも仕方がないとは考えているが、厭なので避けている。
『樹に千びきの毛蟲』より
すべてが客観的に見えてしまう吉行さんにとって、薬の力で興奮している自分というものを見るのは耐えがたかったと 思われる。
そんな吉行さんがヒロポンを服用したときはというと、それは、モダン日本社で働いていたときのことであった。
鬱陶しい事態からの成り行きでヒロポンの錠剤を服用してしまい、めったに使わない薬だったためその効果は増大で、 作家JT(高見順?)の家では一オクターブほどテンションが高くなった、というエピソードがある。
高価なウィスキーを 一瓶飲み干したりして大活躍を演じたというが・・・きゃっと叫んでロクロ首?。
類義語→麻薬
■ 貧乏
軽い貧乏(どの程度なのか?)はともかく、貧乏すぎるとよくない、と吉行さんは言っている。
「芸術家が金持ちになって そのため堕落してゆくテーマの小説がときどきあるが、金があることによって毒される程度の精神では、金のないことによって
もっと甚だしく毒されるであろう」(『私の文学放浪』)」とも。
そういう吉行さん自身は、スイトンばかり食べて暮らすほどの貧乏を経験している。
顔から白い粉がふきだしたり、栄養失調から 下痢をしたりと、現代から見ると重い貧乏(?)です。
といっても、まわりの人間から見ると貧乏には到底見えなかったというから、 さすが。