老化現象

 あまり昔をなつかしむことは、老化現象につながる。

『石膏色と赤』より



路地・路地裏

路地、特に銀座の路地を、吉行さんは好んだようだ。

建物と建物の隙間を通りつつ、ささやかな体験をしたり、空想したりした、 という。路地で客引きの男に誘われたとき「この男も、銀座の路地を愛しているのかもしれぬ」と思ったと書いていることから、 吉行さんも路地を「愛していた」と言えよう。

著作の中に出てきたお気に入りの場所は、御茶ノ水にある山の上ホテル裏手。

 路がしだいに細くなって突き当りに急勾配の長い石段がある。崩れかかったような古い石段が、目の前にそそり立つ感じになる。
 あるいは、いまは無くなったが、有楽町から東京駅への道の両側に、赤煉瓦の建物が並んでいるところも好きだった。
 この風景は、私の中では、スペインのトレドの町の眺めと同じような位置にある。石甃と石の建築物の町で、その全体がくすんだ 紫色にみえる。


『街角の煙草屋までの旅』より