目・眼

中学生の時、電車内で見た中年の男の眼に憧れてからというもの、眼、とくにその光り方を意識するようになったという吉行さん。

 ああいう眼になりたい、と鏡に向かって、眼に力をこめてみた。しかし、眼が痛くなるだけで、一向に光ってこなかった。
 そのうち旧制高校に入ってしばらくしてから、眼が光りはじめ、小説を書くようになってからは一層光るようになり、 ときにはすこし光り過ぎた。


『石膏色と赤』より


その頃、高見順氏の「眼つきが鋭いうちはまだまだ小物で、大物の眼はトロンとした光らない眼だ」という内容の言葉に出会う。

そうしているうちに、

 その私の眼が、二年ほど前からトロンとしてきた。ときどきそのことを指摘される。しかし、残念なことに精神内容に つながっての結果ではなくて、生理的な原因なのである。要するに、老眼と乱視が出て、鋭く焦点を 結ばなくなってしまっただけのことだ。

『石膏色と赤』より


とにかく、光った眼からトロンとした眼になったということは、結果オーライということでしょうか?



名刺

挨拶のとき「名刺は持っておりませんで」と言うことが嫌味になると気付いた吉行さんは、さっそく名刺を作り 持ち歩くようになった。

どんな名刺かというと、肩書きはない、名前と住所と電話番号を記したものだったとか。

きわめて普通の紙に、明朝体で表に名前、 裏に住所と電話番号だけというシンプルなものだったという。

持ち始めたのは、推定年齢43歳。

シンプルながらもオシャレな名刺だったに違いありませんね。



『メゾン・テリエ』

性的刺激を求めて文庫本を買いはしたが、いざ読んでみるとすこぶる面白く感銘を受けた、という作品。

 「その感銘は、いま考えれば文学書独特のもので、私と文学とのつながりは、ここらあたりから出来はじめたような気がする」

『犬が育てた猫』より



メニュー

 「メニューというのはな、夕刊を読むように読んでいいんだよ」

『菓子祭』より