- - - 雨か日和か - - -

 

 

 

2005年5月28日 土曜日

 

 

ある人と、吉行さんの足跡をたどった。

「ある人」とは、なんと、一見吉行風のishitobiさんである。

 

 

数ヶ月前から、こういうやりとりをしていまして。

 

 

「吉行さんの足取りをたどりたいですな」

「そうですな」

 

 

それが、ついに実現した。

 

 

 

「一見吉行風」と「とにかく吉行淳之介」の共同企画である。

 

 

 

これは、当日の再現、実録、第一回「吉行ツアー顛末記。

 

 

 

題して「雨か日和か」。

 

 

 

 

 

12:00 上野毛駅改札にて

 

 

改札で待ち合わせることになった我々。

 

が、しょっぱなから遅刻確実だったので、ishitobiさんにお詫びのメールを入れた。

すると、彼も遅れて到着するとのこと。

 

 

お互いに時間厳守のタイプなのだが・・・はて。

 

まあ、お互いに遅れたのでよしとしよう。

 

 

 

10分ほど遅れて、先に到着。

 

ishitobiさんらしき人物を探しつつ、改札口をぼんやり眺めて立っていた。

 

 

しばらくして、背後から、「boo-sukeさんですか」の声が。

 

 

 

え!なぜ背後から!

 

 

 

さすがishitobiさん。

いやはや、先制パンチです。

 

って、彼はタクシーで来たので通路側からの登場だったわけですが。

 

 

 

 

 

12:30 吉行邸に向かって

 

 

上野毛駅から、挨拶らしきものを交わしながら吉行邸へと向かう。

 

 

稲荷坂を下って、吉行邸前に到着。

 

前に「よれよれ探訪」のために来たのは冬のさなかだった。

あれから季節が変わり、今は邸内のあちこちに緑が生い茂っている。

 

 

湿り気を帯びたホースがエントランスでのびている様子など

今にも吉行さんが出てきそうなたたずまい。

 

 

ブースカは奥にいるのだろうか。

 

 

次に、多摩川まで出て新鮮な空気を吸う。

あいにくの天気だったので、富士山は雲に覆われていた。

 

 

晩年の吉行さんは、この多摩川から富士山を見ている。

静高時代に見た富士山と、違いはどのくらいあったのだろう。

 

 

しばらく多摩川を眺め、同じ道を帰って上野毛駅方面へ。

 

 

 

 

 

13:30 「坂の上の蕎麦屋」にて 

 

 

さくら庵さんで昼食を。

 

 

ishitobiさんと「奥の席に座るのは敷居が高いですねぇ」と言いつつ扉を開けると

いつもの店員さんに、笑顔と思いがけない言葉で迎えていただいた。

 

 

「奥の席が空いていますよ」

 

 

すすめられたのだから仕方がないですなぁ。

しかも、混んでいて奥の席しか空いていなかったのですからねぇ。

 

 

とにやにやしながら着席。ishitobiさんが奥の席、吉行さんの定位置に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉行さん=天丼、という図式が頭に浮かぶも、注文したのはざるそば。

 

 

吉行さんの好んだ天丼は、ishitobiさんが注文したので、詳しくは「一見吉行風」でどうぞ。

 

 

 

そば、香りがよく、硬さもちょうどよく、すっかりご満悦。

その上このお店は居心地がいいので、つい長居をしてしまう。

 

 

何杯もお茶をいただきながら歓談。

 

 

さすがにご迷惑でしょう、という時間になったので帰ろうとしたところ、

店員さんからお土産をいただきました。

 

 

 

 

実は、出していただいたお茶が美味しかったので、メーカーがきになっていたのです。

 

 

もしや、そういう顔つきがばれてしまったのでしょうか。

 

 

 

さくら庵の皆様、いつもありがとうございます。

お茶、美味しくいただいています。

 

 

またうかがいたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

15:30 鳩の街へ

 

 

押さえておかねばならない場所でしょう。

 

 

鳩の街。

 

 

ずいぶん街並みが変わったとはいえ、面影は残っているはず。

 

日が落ちて写真が撮れなくなる前に、鳩の街へと急ぐ。

 

 

 

浅草から東武伊勢崎線に乗って「曳舟」で下車。

駅から水戸街道方向へ10分くらい歩くと、東向島一丁目の交差点に出る。

 

 

そこに「鳩の街」の入り口が。

 

 

ビルとビルとに挟まれたピンクの半円、これが入り口。

 

 

 

アーチの上にプラスチックのような板が立っていて、そこに鳩の絵が。

 

 

 

ここにも鳩。

 

右の黄色い布は「鳩の街通り商店街」の旗。

 

 

左のマークは、鳩の街のシンボルなのでしょうか、あちこちで見かけました。

 

 

 

 

さて、商店街から道を一つ入った一体が元カフェー街。

 

 

独特の雰囲気がある街並みです。

 

 

 

道幅が狭い。自転車2台が通れるくらいだろうか。

 

家が、玄関が、柵なしで表通りに直面している作りの家が目立つ。

 

 

 

どの軒先にも植木鉢がびっしり並んでおり、その緑の勢いと街の古さが、妙にしっくり馴染んでいる街。

 

 

 

モルタルか木造の家。角ばっていない、四隅のどこかが丸い家たち。

 

 

 

円柱が壁面にある家。斬新だ。

 

 

 

壁面の一部に、小さい四角いタイルが正確に埋められている。

ある家は柱一本が、ある家は壁の下四分の一が、といった具合に。

 

 

薄い水色、鮮やかな青、エメラルドグリーン、赤茶色、薄い黄色などなど。

一色の壁もあれば、二色が交互に埋められている壁も。

 

 

排気口のような管も赤みを帯びた丸い形になっていたり、

出窓があったり、瓦のような庇があったり、モザイクタイルがひっそり光っていたり。

 

 

少し汚れたモルタルの建物、外に置きっ放しにしている洗濯機。

 

 

昭和33年を境に消えてしまったと思っていた街が生きていた。

 

もちろん、吉行さんが通ったあの街とは違う。

 

 

 

女性たちが声をかけ、さまざまなやりとりがあった活気のある街。

たしかにそれは消えていた。

 

 

けれど、この街には生活があり、現在があった。

子供の自転車があり、買い物をする女性がいて、配達をする若者がいる。

 

 

猫がゆったり歩いていて、自転車があちこちに停められていて、家族分の洗濯物が干してあって。

 

 

 

昭和33年を知らないこの身にとって、

街並みも魚のようなモザイクタイルも新鮮で、

なぜか懐かしい。

 

 

もし当時ここを歩いていたとして、今も似たような感想を言うならば、この台詞でしょうか。

 

 

 

抜けられないなぁ。

 

 

 

玉の井ではないのに、実際、同じところを何度か歩いてしまった。

当時の玉の井だったら、二人とも警察のご厄介ですな。

 

 

いや、当日もご厄介ぎりぎりか。

 

 

不審者として通報されないよう、感動を押し殺して、住宅街を静かに歩いていたのでした。

 

 

 

 

 

18:00 言問団子へ

 

 

鳩の街を抜け、隅田川へと向かう。

 

 

川の向こうが隅田公園。

夕暮どきだったので、川面に映る夕日をパチリ。

 

 

 

 

少し歩くと・・・

 

 

バス停です。たいして意味はないけれど、なんとなくぱちり。

 

 

 

さらに数分歩くと、見えてきました、言問団子。

 

 

この店構えだと立派すぎて、雪見団子には似合わないですねぇ。

侘しさが足りませんね。

 

 

ネオンといっても、紫色の鳥ですしね。

 

ちなみに、これは鳩ではなく都鳥らしいです。ishitobiさんに教えてもらいました。

 

 

 

 

これが、「こととい団子」。

 

串に刺さっていないのが特徴。

 

 

 

 

お腹がすいてなかったので、団子を激写して次の目的地へ。

 

 

 

 

 

18:30 浅草・薮へ

 

 

さらに20分ほど歩いて浅草へ。

 

 

吉行さんがこのあたりに来ると寄っていた蕎麦屋「薮」に侵入。

 

 

 

 

ざるそばを注文。

 

 

これです。

 

 

 

 

さすが、吉行さんに「旨い」と言わせた一品。

細め蕎麦が大変よろしい。

 

 

盆ざるをひっくり返て、その上に蕎麦を盛っている。

粋ですな。

 

 

汁が濃いので、蕎麦を下2cm程ひたせばよい加減になった。

 

 

この濃さ、なんだか生きている濃さなんですね。

表現、どうしていいのか分からないですが。

ちなみに650円。

 

 

閉店間近なので、蕎麦湯を肴に飲みたい衝動を抑えつつ、

勘定をすませて銀座へと向かうことに。

 

 

 

 

 

19:30 銀座へ

 

 

さて、銀座といっても、どこへ行ったらいいものか。

 

 

吉行さんが出入りしていたバーは、ほどんとが閉店している。

レストランや料亭も、敷居が高すぎるところが多い。

 

 

うーん。

 

 

やはり帝国ホテルですかね。

ずっと利用していたわけだし、なにかしらの雰囲気が掴めるだろう。

 

 

というわけで、帝国ホテルへ直行。

 

 

ここで少し中華料理の店を探す。

結果はまた、別の機会に。

 

 

話は帝国ホテルに戻りまして。

 

 

まずは、地下のアーケード街へ。

店は閉まっていたけれど、電気はついているので中はのぞけた。

 

 

ここで吉行さんはパジャマを買ったのでしたっけ。

男物と女物はボタンのつき方が違うのを発見したのはここか?

 

 

ちなみに、男物のパジャマは見当たらなかった。

なくなったのでしょうか。

 

 

あと、散髪をしましたよね、たしか。

となると、この店かも。

 

 

「バーバーオイカワ」

伝統を感じました。

 

 

床や壁の色合いや座り心地のよさそうな椅子、それらの配置などが

安心感と腕のよさを物語っているようだ。

 

 

ぶれまくっていますが、「バーバーオイカワ」の店内。

 

 

 

 

 

居心地がよさそうですね。

 

 

さて、ふと時計を見ると時刻は20:30に。

この時間までお酒が入っていないのは奇跡なのか、異変なのか。

 

 

ノーネクタイ、ノージャケットだったので、

入店拒否されやしないかと心配しつつ、いざホテルのメインバーへ。

 

 

気分は完全に尻尾を巻いた犬です。追い払われたら、

ホテルの外にある居酒屋に逃げ込むか。

 

 

が、案ずる産むがやすしでした。

一番奥のテーブル席へと案内されて着席。

 

 

カウンターはね、ちょっとね。

 

 

意外に賑やか。

いろいろな関係の、いろいろな年齢の客層なのだが、

しんみり派が少なかったように見受けられた。

 

 

天井が低めで、どことなくデザインがライト風。

当時のままか、再現したのか。

 

 

オーダーしたのは。

吉行さん風にいくと「レッドアイ」なのだが・・・

 

 

初めて行くバーで頼むカクテルは決まっているので、レッドアイはやめて好きな順に3種類を注文。

 

 

この賑やかなバーのカウンターで、吉行さんが一人で飲んでいたとしても雰囲気があっていいかもしれんです。

 

 

 

雑踏の中の静寂じゃないけれど、長い止まり木のすみっこに吉行さんの黒い背中がある風景。

 

 

 

バーマンがむやみに話しかけてこないスタイルのバー。

ホテルなのでぼったくられる心配もないですし。

 

ゆったりした気分でしばし歓談。

吉行さんの話をしたことがなかった我々が初めて吉行さんの話をしました。

 

 

文学談義にはならなかったけど、

いや、私に分析力がなくてできなかっただけなのですが。

 

 

吉行さんの話から横道、横道とそれていろいろなアイディアが浮かぶ。

その内容については、いずれまた。

 

吉行さんつながりで、こんな話も。

 

 

「なんで吉行さんみたいにモテないんですかね」。

どことなく肩を落とす我々。

 

モテない原因の推察内容は省略するとして。

 

 

お互い、宮城まり子さんタイプを探せ!っていうことでしょうか。

と、お互い首をかなりかしげながらの結論が出たところで時計を見ると。

 

 

24時を軽く回っています。

おいおいおい、終電に間に合うんかいな。

 

 

銀座からは余裕でした。

が、赤坂見附でishitobiさんと別れ、私は渋谷で走りましたよ。

全力疾走です。アルコール入りです。

 

 

物資の乏しい時代の学生なら不経済です。

飲んで走っても酔わないなんてね。

 

 

さて。

 

 

実は、この日の前後は天気が不安定でして。

 

 

前日のニュースでは、いつ雨が降ってもおかしくないような、

曇りのち雨、のち曇り、のような天気という予報。

 

 

晴れ男、雨女、もしそういうのがあるのなら、

ishibotiさんは雨らしく、私は晴れです。

 

 

どっちが勝つ?

 

 

前日、

「夕方、驟雨が降ったら私のせいです。勝ちたくないな」

というishitobiさんに対し、

「『驟雨』なら仕方ないですね」

と言っていた私。

 

 

結果は、晴れのち曇りでした。

 

 

よって、この勝負は後者に軍配が。

 

 

って、驟雨になるのもよかったんですけどね。

 

 

 

というわけで、このタイトルにあいなりました。

「雨か日和か」

 

 

 

それでは、また。